高崎市

富岡賢治高崎市長に聞く

―高齢者福祉に対する基本的な考え方は 高崎のビジネスを盛んにし、それをてこに高齢者福祉や子育て環境、医療、教育などの充実を図ろうと考えています。同時に、企業誘致にとっても福祉や教育の充実はとても重要。企業は進出地を選ぷ際の判断材料にしているからです。 二つ目は、全国的に高齢者を行政窓口に「来させる」形になっていますが、高齢者にとっては大変。そこで行政が「高齢者を待つ」から「出向く」形へと転換しています。そして三つ目は高齢者を大事にし、安心して暮らせる地域社会にしていくことで、若い人たちにも安心惑を持ってもらえるようになると思います。

―「高齢者あんしんセンター」が高齢者のもとへ出向く拠点となっています。 本来は「地域包括支援センター」という名称です。全国の仕組みに従うと高崎市は9地域に分けて9つのセンターを作るということになりますが、出向くにはきめ細かくする必要があり、28カ所にあんしんセンターを設置しています。全国48の中核市で2番目に多い数です。 独り暮らし高齢者を訪問して様子をうかがったり、いろいろな相談に応えるために訪問できる態勢にしています。

―1日3食の配食サービス、介護する家族の負担を軽減する「介護SOS」事業など、独自の取り組みが目立ちます。 以前は30年以上も昼食1回だけの配食でしたが、毎日3回きちんと食事をできるようにと始めました。食事は、一人一人味付けなどに好みがあるので、配食サービスの業者を選べるようにと取り組んでいます。手間はかかりますが、高齢者に充足感を満たしてもらいたいと思っています。 また、介護疲れによる家庭崩壊を防ぎたいですね。介護していた妻が倒れ、夫が仕事を辞めざるを得ないといったケースがあるので、家族の負担を軽減したいと考えています。急な用事にも、電話一本で排せつから食事の世話まで対応できる人を派遣するシステムを作ったはか、たまには介護から離れ、温泉などで心と体を休めることができるように、被介護者を預かる仕組みも整えました。介護専門家付き付きホテルといったところでしょうか。

―いずれも実態に即した事業ということですね。 高齢者の生活実態をよく見ることが大事だと思っています。お年寄りの姿をよく見ていると、気づく問題点が出てくるのでそれに対応する施策に取り組んでいくことになります。 30、40歳代の人が、自分の父母が高齢になって将米どうなるのかと、不安になることがあると思います。その不安を解決していこうという考えです。

―高齢者の問題の一つに社会とのつながりが希薄になりがちということもあるようです。 これはなかなか難しい問題ですが、お年寄りがお茶を飲みながら、いろいろな人と雑談できる「サロン」を市内にたくさん作ろうと取り組んでいます。 市社会福祉協議会が主体となっている335ヵ所への支援のほか、本年度から一般家庭や企業など、部屋を提供してくれるボランティアを頼りに高齢者の居場所づくり事業をスタートさせました。互いに支え合って協力してくれる市民がいるので、大変ありがたいですね。

―今後の取り組みについては。 年金も昔ほど期待できないこともあり、仕事を辞めた後の生活に不安を抱えている人が多いようです。暮らしやすい社会をつくるには、やはり地域の支え合いが大切なので、行政は地域の支え合いが広がっていくよう、充実した施策で支えていきたいと考えています。

高齢者あんしんセンター

待つから出向く窓口に

高齢者の総合相談窓口「高齢者あんしんセンター」は、2017年度から市内28カ所に増えた。地域の高齢者福祉の拠点として行政が「待つ福祉から出向く福祉へ」を合言葉に、積極的な訪問活動で高齢者に寄り添う支援を展開している。

高齢者の家族や近隣住民、民生委員などと連携して情報を共有。相談者からセンターヘ連絡があればすぐに出向き、日常の困りごとから介護サービスなどの専門的な相談まできめ細かく対応している。

窓口でも相談を受け付けており“身近な相談窓口”として高齢者の悩みを解決する。

各センターでは高齢者世帯の全戸訪問を実施している。担当者は「情報がなくても積極的に出向き、御用聞きの役割を果たしたい」とし、高齢者の現状を把握して一人一人に合った支援を行う考えだ。

買い物困難者への買い物代行

重たい荷物も「お任せ」

「車がなくて買い物が大変」「重たい荷物を家まで持ち帰れない」。高齢者のこんな悩みをサポートしてくれるのが、市と市社会福祉協議会とで2013年に開始した「高齢者等買物代行事業」だ。

利用者は市杜会福祉協議会に申し込むと、登録しているボランティアが店舗へ行って日用品や食料品などを購入し、利用者の元へ届ける。利用料は1回100円で、ボランティアには1回400円の手数料が支払われる仕組み。

ボランティアは対応方法などについての研修を受けており、原則として同じ利用者の買い物を代行。顔なじみになるため、高齢者にはコミュニケーションを取れるメリットがあるほか、見守りにも役立てている。

昨年12月1日現在の登録者数はポランティアが211人で、利用者は124人。ただ、ボランティアの居住地域に偏りがあり、利用できない地域もあるため、ボランティアの確保にも力を入れている。

高齢者配食サービス

1日3食しっかり食事

独り暮らしの高齢者や高齢者世帯に食事を提供する配食サービスは、昼に1回だけだった「給食サービス」の内容を改め、2016年度から行っている。

土曜、日曜も含めて1日3食に対応し、生活や体調など個々の状況に合わせて利用できる仕組みだ。費用は朝食が200円、昼と夕食が各350円。1日3食に対応している自治体は全国的にみても珍しいという。

市内の17業者が利用者宅に配達している。配食サービスは定期的な見守りだけでなく、栄養バランスの取れた食事を届けることで、低栄養を防げるのもメリットだ。「利用者の皆さんからは、手渡しされることで配達の人との会話が楽しみだという声を聞く」と担当者は話す。

16年度は累計22万食で昼食が約12万7000食、夕食が約9万食となっている。現在の利用者は約1000人で、給食サービスに比べると約2倍に上っている。

はいかい高齢者救援システム

GPS使い素早く保護

認知症などで行方不明になった高齢者を素早く発見し、事故から守るのがGPS(衛星利用測位システム)を利用した「はいかい高齢者救援システム」だ。

市が小型のGPS機器を無料で貸し出し、靴や押し車などに装着。行方不明になった際に家族らが見守りセンターに通報すると同センターが位置情報を確認して関係者に連絡する仕組み。無料貸し出しは県内でも初めてだ。

利用者は2018年1月1日現在269人で、事業開始の15年10月から同日までに308件の通報があったが、すべて無事に保護されている。発見までの所要時間は20分以内が159件で52%。1時間以内に92%が見つかっている。

自宅近くでもはいかいする高齢者を探すのは大変で自転車や電車などを使っている場合はより困難になる。実際に位置情報を確認したところ東京都板橋区にいることが分かり保護したケースもあった。

介護SOSサービス

介護SOSサービスは、24時間365日専用ダイヤル(027・360・5524)に電話をすると、介護認定を受けていなくても、市内在住の65歳以上の高齢者なら訪問や宿泊サービスが受けられる全国初の取り組み。介護者の負担や不安を軽減し、介護離職者を減らすことが目的だ。家族などの介護者が介護の手助けが必要になった時いつでも利用できる全国に先駆けて始めた画期的な事業。

緊急の用事もサポート

訪問サービス

訪問サービスは「急用で介護してくれる人が見つからない」「連日の介護でリフレッシュしたい」など、介護の困りごとに迅速に対応している。

サービス利用の流れは、SOSサービス専用ダイヤルに電話すると、介護福祉士など介護の専門資格を持った職員が詳しい内容を聞き取りする。その後サービスを手配し、訪問までの時間などを案内する。

ヘルパーが2人1組となって直接訪問し、食事や排せつの介助、通院の同行、掃除や洗濯など必要なサービスを提供する。ただし医療や看護、看護専門職の対応を必要とする行為などの場合は対応できない。

料金は1時間当たり250円で、利用は原則として月5回まで。平均1、2時間の利用が多いという。2016年度は月平均45件程度だったが、本年度は同60件程度に増えた。昨年11月は100件を超え、需要が増えている。

家族の心と身体に休息を

宿泊サービス

短期の宿泊で食事と入浴を提供する。実施施設は、社会福祉法人の新生会(中室田町)が営む施設と、一般宿泊施設のニューサンピア(島野町)の2カ所。当初は新生会のみだったがニューサンピアが加わり、市内東西に1施設ずつ設けられ、選択肢が増えて利用しやすくなった。

料金は、介護者が利用者を送迎すると1泊2日で2000円。送迎付きもあり、同3000円。利用回数は月3回までで、1回の利用は2連泊までとなっている。