川場村

群馬県の北東部、武尊山の南麓に広がる川場村。半世紀近く取り組んできた「農業プラス観光」に、「環境」を加えた村づくりが進んでいる。近年は「地域おこし協力隊制度」を活用した地域活性化にも積極的。協力隊員が関わったジビエ(野生鳥獣肉)を使った商品の開発もその一つで、第1弾としてレトルトカレー「月と鹿」を20日に発売する。豊かな地域資源と斬新なアイデアの融合で、新たな魅力づくりへ一歩を踏み出した。

村独自のジビエ商品・レトルトカレー「月と鹿」をPRする丸山さん

美しい田園風景が広がる同村でもシカやイノシシなどによる農作物への被害が深刻化している。村はハンターの育成などさまざまな対策を講じているが、獣害対策に力を入れている外山京太郎村長の発案で道の駅「川場田園プラザ」のファーマーズマーケット内に各地のジビエ商品を集めた「ハンターズマーケット」を試験的に開設。缶詰やレトルトカレーが好評だったことから、村独自のジビエ商品を開発することにした。

東日本大震災の影響で、同村のシカやイノシシの肉を食べることはできないものの、規制が解除された際の足掛かりとすることも目指す。

今回使用したのは北海道産のエゾシカ肉と、川場産のリンゴ「ぐんま名月」。約1年かけて試作・試食を重ね商品化した。地域おこし協力隊員でもともとデザイン関係の仕事をしていた丸山茜さんが、パッケージデザインを担当。エゾシカと黄色いリンゴ、川場の豊かな自然をイメージさせるイラストを淡い色合いで描いたほか、同商品が生まれるまでのストーリーも載せた。

レトルトカレー「月と鹿」は、軟らかく煮込んだシカ肉とリンゴの優しい甘酸っぱさを味わえる

丸山さんは「よく売り場で見かける缶詰やレトルトカレーはワイルドなパッケージのものが多い。『獣の肉はちょっと』と思う人や、若年層、女性にも興味を持ってもらえるよう、かわいい、カジュアルなものを意識した」と狙いを話す。

「月と鹿」は1袋850円(税別)で、20日から「ハンターズマーケット」で販売する。

地域おこし協力隊・丸山茜さん

「ここに住み続けたい」

新型コロナウイルス感染拡大の影響で摘み取りできなかったイチゴで作ったジュース(右)。数量が限られていたため、できたのは126本。このジュースとジャム、オリジナルのイチゴ形プレートを桐箱に入れてふるさと納税の返礼品とした。ジュースとジャムは「ファーマーズマーケット」で購入できる

協力隊員として採用されたのは2018年4月。それまでは都内で広告チラシなどの制作を手掛ける会社に勤めていた。自然に触れられる環境への憧れや「自分にとって意味のある暮らしをしたい」などの思いから、協力隊への応募を決意。いくつかの候補の中から同村を選んだ。「10月ごろ下見に来た時、黄金に輝きながらさざめく稲穂に目を奪われた。そして、新しいこと、何かをやりたいという人を受け入れてくれそうな雰囲気が良かった」

1年目はライスセンターやイチゴ農家、トマト農家、酪農家で、収穫作業などを体験。都内で生活していた頃、毎日食べているものの生産や流通過程に疑問を持ち、「売られているものを買うのではなく、自分で育てたり、手に入れることはできないだろうか」との考えから狩猟免許を取得した。

その後、同村冨士山地区の住民らで立ち上げた「冨士山集落活性化協議会」に所属し、現在はイベントの企画・運営やポスター、パンフレット制作などの活動に関わっている。並行して村内外のイベントのチラシやポスター、商品のポップなどもこなす。その一環として、シカ肉を使ったレトルトカレーやイチゴジュース・ジャムづくりにも参加、商品開発やデザインを担当した。

協力隊の任期は来年3月まで。「だんだんと住民の方とも仲良くなり、自分のやりたいことに挑戦できたり、地域の活性化に自分のスキルを生かすことができてうれしい。今後は“半農半デザイン”で生計を立てながら、それを地域活性化にもつなげていけるよう模索しながら、川場村に住み続けたいです」と笑顔で語る。

循環型地域社会の形成を

川場村長 外山京太郎

川場村は、1970年代から基幹産業の農業に観光を加えた村づくりを推進してきました。近年は、村土の83%を占める森林に着目し、「農業プラス観光」に環境を加え、地域資源を活用した持続可能な循環型地域社会の形成を推進しています。

また、村では2017年度から、人口減少や高齢化が進む地域へ移住して、その地域の支援に取り組む「地域おこし協力隊制度」を活用し、若い力の新たな発想による地域活性化を進めています。

現在、5人の地域おこし協力隊が活動しておりますが、最長3年間の任期で、この地域に愛着を抱き定住できるよう支援しています。丸山茜さんには、この地域で「狩りガール」として、ぜひ活躍してほしいと考えています。

今後も、川場村では世田谷区との交流事業、田園プラザ事業、木材コンビナート事業などを展開し、循環型地域社会の形成を目指します。人と人とのつながりを大切にした村づくりを推進し、村民が安全に安心して暮らせること、安定した雇用や生活基盤の維持に努めていきます。