みなかみ町

首都圏を支える利根川の最初の一滴を生み出すみなかみ町。東京都心から1時間ほどで訪れることができる場所でありながら、谷川岳や利根川源流域といった貴重な自然が残る。町はこうした自然を最も大切な宝と位置付け、自然を守るとともに観光や農業に生かし、価値を広める取り組みを推進。自然と人が共生する持続可能な地域づくりを進める。

人と自然 ともに生きるまち。

町の素晴らしさ再認識

利根川で行われているラフティング。豊かな自然の恵みを生かしたアウトドア・レジャーが盛んだ

ユネスコ エコパーク

温泉やアウトドア・レジャーなど、自然の恵みを生かした観光業や農林業を営む暮らし。国連教育科学文化機関(ユネスコ)はみなかみ町のそんな暮らし方を「『自然と人とが共生する姿』は世界のモデル」と評価。2017年6月、町は「みなかみユネスコエコパーク」に登録された。

ユネスコエコパークの正式名は「生物圏保存地域(BR)」。ユネスコが1971年に始めた「ユネスコ人間と生物圏(MAB)計画」のプロジェクトの一つで、日本では「ユネスコエコパーク」と呼んでいる。手つかずの自然の保全を原則とする世界自然遺産に対し、エコパークは自然と人間が共生する社会の実現が目的だ。

登録によりブランド力やイメージの向上、環境保全などを図るほか、町民に町の素晴らしさを再認識してもらう。さらに、町民や事業者、行政が、まちづくりのベクトルを合わせて「世界中から愛されるみなかみ」を目指すことも期待する。

ユネスコはエコパークをグローバルに普及させることで「2030アジェンダ」の実施に貢献すると明言。エコパークには「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に向けた先導的な取り組みが求められる。町は19年、観光や農林業、教育、健康など、さまざまな分野を連携させた地方創生を推進する「SDGs未来都市」に選定された。

選定に伴いSDGs未来都市計画を策定し、具体的な取り組みを決めた。森林資源の活用もその一つ。担い手育成から製品化・販売まで一貫したシステムをつくり、林業の6次産業化を図る。山林所有者や住民が主体的・継続的に携わる「自伐型林業」に着目、観光や農業との兼業による雇用創出を視野に入れ、多様な担い手を育成する。

教育では、地域学習・環境学習に注力。子どもたちは、エコパークをフィールドに地域の自然や文化などを学んでいる。町はその成果を発表する環境学習会を毎年開催。今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止を図るためウェブ開催としたが、雪や温泉、ホタルなど、みなかみならではの研究発表を動画で視聴できる。

また、町内の全小中高校を「持続可能な開発のための教育(ESD)」の拠点であるユネスコスクールに加盟させ、エコパークとの相乗効果を図る。「木育」にも力を入れ、生まれた赤ちゃんに、町が発祥のカスタネットをプレゼントするなど、子どものころから木と触れ合ってもらう。

研究発表の動画は左のQRコードから視聴できます。

「香りで地元に貢献を」

移住&起業

木の香りが凝縮した精油作りに励む総一郎さん(左)と早也花さん
精油の原料や蒸留に欠かせない水はすべて町内で調達している

昨年4月、みなかみ町に移住した長壁総一郎さん(33)と、妻の早也花さん(30)。「自然の迫力に圧倒され、この自然に携わりながらモノづくりをしたいと感じた」と振り返る。

ともに青年海外協力隊に参加。総一郎さんは東ティモール、早也花さんはラオスで活動した。2018年に帰国、間伐材を原料にした精油製造で起業することを決め、森林資源が豊富にあることや挑戦・移住に寛容な場所、自分たちが好きになれる土地―などを条件に候補地選びを進めた。友人の紹介で訪れたみなかみ町に魅力を感じ、ユネスコエコパークに登録された自然と人が共生する姿、町の取り組み、住民の温かさにひかれ、移住を決めた。

自宅にスギやマツ、アブラチャンなどを蒸して精油を取り出す蒸留所を建設した。薬品を使わない「水蒸気蒸留法」で、オイルだけでなく香りの付いた水も得る。精油を使ってアロマ関連商品を製造・販売。原料は住民に提供してもらっているほか、総一郎さんが所属する自伐型林業チームの活動で出た木材として使えない枝葉を活用している。

ブランド名の「Licca(りっか)」は「香り立つ=立香」やスウェーデン語の「lycka=しあわせ、幸福」との意味を込めて命名した。オンラインショップや町内の道の駅、宿泊施設や土産物店などで販売。旅館のロビーで使用するオリジナルブレンドの香りを調合したり、町内を訪れる修学旅行生への香育事業も手掛ける。

「香りを通して町の魅力を再発見してもらったり、離れていても、みなかみを思い出せるような香りを提供したい」と口をそろえる二人。香りを通して、大好きな町に貢献することがモチベーションだ。

活性化と観光振興へ独自の電子地域通貨

「MINAKAMI HEART Pay」は、みなかみ町の宿泊や飲食、アウトドア体験、物販などで利用できる町独自の電子地域通貨。観光振興と地域経済活性化を目指して、昨年11月に運用を開始した。これまでに町内の約170店舗が参加、約5000人が利用登録している。

スマートフォンの専用アプリ=写真右=をダウンロードして、残高(単位=ht、ハート)をチャージすると、加盟店で便利でお得に利用できる。QRコードが印刷されたカード=写真左=でも決済できる。

残高は現金やクレジットカードによるチャージだけでなく、健康診断や各種キャンペーンへの参加、町へのふるさと納税の返礼品として受け取ることもできる。

現金によるチャージ(入金)は町内道の駅など7カ所で行え、最大3%分のポイントが還元される。また、利用額の一部は、みなかみユネスコエコパークの水と森林と人を育む取り組みにも活用される。