第9回 「昆虫食」で世界を救う! 大学発ベンチャーが始動

[2019/10/29]
昆虫食ベンチャー「FUTURENAUT」 CEO 櫻井蓮さん
人口増加による世界的な食糧難の対策として、栄養価の高い昆虫食が注目を集めています。高崎経済大学地域政策学部4年の櫻井蓮さん(22)は、生産コストが低く環境に優しい食用コオロギに着目。大学発ベンチャーの「FUTURENAUT(フューチャーノート)」を立ち上げ、学生CEOとして昆虫食の普及に取り組んでいます。2019年10月には、商品化の第1弾となる「コオロギのビスコッティ」を開発、販売を始めました。大学で学んだマーケティングや環境心理学の見地を生かし、消費者に受け入れられやすい味やPR戦略などに知恵を絞っています。
昆虫食に興味を持ったきっかけは。
櫻井

高校時代は新潟県の佐渡島で過ごし、生物部に所属。水生生物の採取も活動の1つでした。高崎経済大学に進学した現在は、飯島明宏教授(環境科学)のゼミに所属しています。
ゼミでの水生生物の調査やフィールドワークを通して、日本には水生生物を食べる文化があると知りました。長野県伊那地方の「ざざ虫(トビケラ・カワゲラなどの幼虫)」などが有名ですね。たんぱく質が豊富で、佃煮などにして食べます。

これは面白いなと調べてみると、欧米諸国では昆虫を原料としたプロテイン粉末やスナックバーなどが販売され、市場が拡大していることが分かりました。特にコオロギはタイなどで養殖システムが確立され、量産の体制が整いつつあります。

タイの食用コオロギについて調査する櫻井さん
「FUTURENAUT」は高崎経済大学では初めての大学発ベンチャーです。起業に至った経緯は。
櫻井

大学入学後、「何かしたい」という漠然とした思いがありました。空き家活用やインターンシップなどに参加するも、これだという「何か」には出会えず。
2年生の時に「自分でやらないとやりたいことはできない」と気付き、放置された竹の有効利用を考える学生団体「KAGUYAの灯り」を立ち上げました。
竹林整備や竹あかりをつくるワークショップを開催するうちに、ビジネスや起業にも興味が湧いてきて。結果として、市場性のある昆虫食で起業しましたが、この決断は自分一人ではできなかったと思います。
所属ゼミの飯島教授がCTOとして、また、タイでインバウンドビジネスのコンサルティング会社を経営する伊禮喬太さんがCMOとして参画してくれたのも心強いです。研究開発や販売戦略に関する側面は飯島教授、原料調達や経営戦略に関する側面は伊禮さんのサポートが得られます。食用コオロギの養殖や加工はタイで行っているので、特に現地とのやり取りでは伊禮さんの協力が不可欠です。私は主に若さを武器に、営業や表に立つPR戦略を担っていますが、周囲の支えがあってこその事業だと思っています。

所属ゼミの飯島教授(右)も CTOとして「FUTURENAUT」に参画している
10月には第一弾として「コオロギのビスコッティ」を発売しました。
櫻井

味は2種類ありますが、いずれもナッツやドライフルーツを入れることでおいしく味わってもらえるよう工夫しました。
食用コオロギの粉末を5%配合した「和(ヤワラカ)」はコーヒーなどによく合います。ローストコオロギをトッピングした「采(スガタ)」は、サクサクした食感でコオロギの存在にほとんど気付かないくらいです。10%配合の試作品は風味が強く、人によって好き嫌いが分かれるので商品化には至りませんでした。
味と配合のバランスをいろいろ試して、今の味にたどり着きました。昆虫の食用利用に関する国際学会で発表し、海外の研究者にも試食してもらいました。甘すぎず、香りがよく、ナッツの風味とも合うと好評でした。

(※実際に試食させて頂きましたが、ナッツが香ばしいおいしいクッキーでした。「和(ヤワラカ)」はコーヒーのような風味を感じました)

コオロギのローストや粉末を混ぜたビスコッティ。 お茶やコーヒーなどによく合う
飽食の時代に、わざわざ昆虫を食べるメリットって何でしょう。
櫻井

確かに日本国内には食料があふれ、昆虫が貴重なたんぱく源だったのは昔の話です。ただ世界に目を向ければ、2050年には人口が90億人を超え、世界的なたんぱく質不足に陥ると予測されています。増え続ける食肉需要に対して、豚や牛といった従来の食肉産業で補おうとすれば、環境に大きな負荷をかけることになります。

昆虫はたんぱく質のほか、ビタミンやミネラルといった栄養素が豊富です。しかも、生産によって排出される温室効果ガスは牛の100分の1程度。餌となる飼料や水の消費も抑えられるので、国連食糧農業機関(FAO)報告書でも、食肉生産に代わる「未来のタンパク源」として昆虫食に注目しています。

研究室のメンバーで訪れた タイの食用コオロギの養殖所。
今後現地の農家と連携した 生産・加工を行う予定
昆虫が苦手な人も多く、食べ物として浸透するには時間がかかりそうです。
櫻井

食品の製造工程では、虫は「異物」と考えられています。混入したら自主回収するような存在なので「食品に使うなんて信じられない」という反応は当然あります。
日本では、昆虫食が「罰ゲーム」で食べるようなゲテモノとして扱われていますが、このイメージを変えていきたい。今回のビスコッティは、コオロギを粉末にして混ぜることで見た目の抵抗感を少なくしています。パッケージやネーミング、環境に配慮した生産体制を動画でPRするなど、消費者に手に取ってもらうための工夫を重ねています。

最近ようやく国内生産のめども立ちました。現在は、いそべ煎餅の老舗「田村製菓」(安中市郷原)の協力を得て、新しいお菓子の開発を進めています。来春から大学院に進みますが、卒業するまでに「FUTURENAUT」を昆虫食のベンチャーとして成長させることが目標です。

初めての人も手に取りやすいよう、 見た目やパッケージを工夫している
「FUTURENAUT」
高崎経済大学で初となる大学ベンチャー。「コオロギのビスコッティ」はネット注文のほか、前橋市街の「創業カフェ ムーちゃん」や「喫茶 マルカ」、県立群馬昆虫の森(桐生市新里町)、国立科学博物館(東京都)のミュージアムショップなどで販売中。限定販売のため在庫がなくなり次第、販売を終了する。
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