渋川・ 堀井さん 加工と直販 軌道に 無農薬で 野菜多品目

自ら収穫した野菜を使い、 新商品の「蒸しギョーザ」を試作する堀井一平さん(左)

4月中旬の日曜日。赤城山西麓の渋川市赤城町溝呂木にある畑の中の小さな家のキッチンで、蒸しギョーザ作りが始まった。薄く延ばした生地を型で抜く堀井一平(39)。妻の裕紀(36)は、収穫した野菜で具を作る。「むぎちゃんもやる」と長女の麦音(2)は裕紀の隣に踏み台を移動させて“お手伝い”。そんな息子たちを、父の良夫(67)と母のルミ子(66)が見守る。

「そろそろ味を決めないとね」と裕紀。ギョーザ作りは夕食の用意ではなく、イベントで販売する新商品の開発だ。何度か試食し、手応えをつかんでいる。

一平は横浜で生まれ育ち、大学卒業後はサラリーマン生活を送った。「2年くらい働いたけれど何かが違っていた」。会社を辞め、インドやネパール、パキスタンなどを旅した。「そこで暮らしている人たちが、幸せそうに見えた」

帰国後、自給自足を目指しながら料理を提供したりする長野県原村の「カナディアン・ファーム」に身を寄せ、有機農業や廃材建築などに親しんだ。農家に寝泊まりして有機農業を学ぶ「WWOOF」を利用、オーストラリアにも渡った。

そして確信した。「農業をちゃんとやれば生活できる」。だが土地探しを始めたものの、思うような土地は見つからない。あちこちを見て回る中で「赤城南面を走っていた時、急に視界が開け、ピンときた」という。近くの観光農園経営者と知り合い、その支援で民家を借りることができた。

2011年春、新しい生活が始まった。化学肥料を使わず、無農薬で多品目の野菜を栽培する。収穫した野菜で料理や加工品を作り、イベントを開いたり、消費者に直接届ける。そんな農業スタイルが軌道に乗りつつある。

レタスやキャベツ、ロシアンケール、小麦、トウモロコシ、ナス、トマト…。正確に数えたことはないが、栽培する野菜は30種類超。4月から1月まで続く農作業と並行して、肥料を作る。さらにペッパーソースや焼きナスの歯磨き粉といった加工品を作り、県内外のイベントで販売。新しい商品も考える。

「たくんさん失敗したけれど、地元の農家に学ばせてもらった。農業は100人いれば100通り。この土地に合った農業を、自分のやり方でやればいい」。7年かけてつかんだ自信がにじむ。

(敬称略)