藤岡・ 渡辺さん 芸術育む雰囲気 共鳴 古民家、 ギャラリーカフェに

今年2月にギャラリーカフェをオープンした (右から)渡辺嘉幸さん、彩英子さん

国道から小高い丘に向かう細い道を上ると、「あじさいの里」の看板が見えてくる。アジサイが自生する緑豊かな場所にある古民家。藤岡市鬼石に渡辺嘉幸(48)、彩英子(38)夫妻がオープンしたギャラリーカフェ「あじさいの里 芸術・茶屋カタチ」だ。

「うっそうとした木々に囲まれ、ジャングルのようだった」。昨年2月に都内から移住後、30年以上空き家だった古民家を整備した。右も左も分からない土地だったが、近所の人たちの協力で木々を伐採。周囲の温かい支援を受けながらカフェはスタートした。

嘉幸は美術批評が専門だ。カフェの名前にある「カタチ」は、ペンネームの嘉達(かたち)から取った。以前は「美的空間づくり」のため都内でギャラリーカフェを営んでおり、そこでイラストレーターの仕事をしていた彩英子と出会い、2015年に結婚した。

「渡辺渡」のペンネームで美術家として作品づくりに励む彩英子。結婚前から都内暮らしが長かっただけに、田舎暮らしに漠然とした憧れがあった。同時に、ビジネスとして絵画やイラストを描くことに違和感を覚えていた。依頼者の意思を尊重する必要があるからだ。「自分の気持ちに正直に向き合って作品を作りたい」。広々とした空間でギャラリーカフェを営みたいと考えていた嘉幸と思いが重なり移住が決まった。

物件探しを始めた16年9月ごろ、知人の勧めで鬼石地区を訪れ、芸術家が数週間滞在して創作活動をする「アートレジデンシー」に触れた。「ハロー」。片言の英語で外国人の芸術家とコミュニケーション。空き店舗を活用した工房で絵画を描く姿に衝撃を受けた。「ここだ」。夫妻と同じように、この雰囲気に触発され、移住した人が多かったことも背中を押した。

4月のある月曜日のカフェ「カタチ」。市内のバイオリン工房で製作・販売をする金子斉一郎(32)がやってきた。昨秋、アートレジデンシーのイベントで知り合った。同時期に移住してきた者同士で、すぐに意気投合した。

カフェの庭で夫妻への木製の物置を作っていた近所の大工、飯島忠(79)も手を休め会話に合流。「もうできそうですね」「あっという間だよ」「他にどんなもの作ってるんですか」「水車かな」「えーどうやって作るんですか」。自然とものづくりの会話が広がっていく。

(敬称略)