藤岡・ 渡辺さん 芸術の輪 外国人とも メニューや展示作地元色

作ったクッキーを手に取りながら仕上がりを確認する渡辺さん夫妻

「石の質感、いい具合に表現できたね」。年が明け、しめ縄飾りも片付けたある日。藤岡市鬼石のギャラリーカフェ「カタチ」で、渡辺嘉幸(49)、彩英子(39)夫妻が、新たに考案した新メニューのクッキーの仕上がりに満足そうな声を上げていた。

名物を作ろうと試行錯誤する夫妻の新作は「銘菓 三波石峡」。地元の名勝で、天然記念物の渓谷にある「三波石」の形を模した焼き菓子だ。藤岡産の小麦粉や県産の桑葉粉を使い、ごろっとした見た目と、緑や白の色合いを表現した。嘉幸は「イメージだけだったものが形になってきた」と、メニューのバリエーションが増えたことを喜ぶ。

カフェをオープンして間もなく1周年。順調に経営してきた2人の交友関係に変化が表れた。日本人の芸術家仲間と多かった交流が、外国人芸術家にも広がっている。国内外の芸術家が滞在し、創作活動する「アートレジデンシー」に参加した芸術家と積極的に親睦。昨年の大みそかから元日にかけ、外国人の芸術家をカフェに招き、スープなど野菜中心の料理を振る舞った。菜食主義の外国人から大いに喜ばれ、盛り上がった。

交流の証しとして、作品をプレゼントされ、カフェの内外に飾っている。中でもオーストラリア人から贈られ、庭に置いた鬼石周辺の山々をデザインした陶器がお気に入り。木々をイメージしたてっぺんの形が印象的だ。他にも、床の間には美術家である彩英子の作品の隣に黒い球体の作品を並べた。彩英子は「交流が深まると作品が集まるのがうれしい。外国人のユニークな発想をここで伝えていきたい」と喜んでいる。

新年の目標は国内外の芸術家だけでなく、一般の人を交えて芸術を語り合える場所をつくることだ。2人は「自分たちが好きな芸術はまだ理解されにくい世界」と考えている。現代アートについて気軽に話し合える「雑談会」を開き、敷居を低くするために努力していきたいという。「芸術を知る入り口のような場所にしていきたい」

都内から移住し、2年が過ぎようとしている。右も左も分からない中でカフェを開き、住民の協力で地域に溶け込んだ。感謝の気持ちを忘れず、地域に恩返しを重ねるつもりだ。2人は「自由なスタイルで今まで通り、できることを進めていきたい」と話す。

(敬称略)