藤岡・ 渡辺さん カフェで創作 打ち込む 「地域の人に癒やされる」

作品の制作に取り組む彩英子さん(右)と見守る嘉幸さん

豊かな緑に囲まれた藤岡市鬼石のギャラリーカフェ「カタチ」。7月上旬、市内は30度を超えるうだるような暑さだったが、カフェの中は比較的涼しく快適だ。嘉幸(48)が見守る中、縁側で彩英子(39)が真剣な表情で、鉛筆を片手に絵画を描いている。題材は小さなトチの実だ。

2月のカフェオープンから煩雑な内外装の準備は一段落した。彩英子は「渡辺渡」の名で美術家の活動に本腰を入れ始めた。9月21日から4日間、地元で開かれる「かんな秋のアートまつり」に向け、作品の完成を急ぐ。2カ月以上かけて1枚を描くスタイルなだけに、時間はそれほどない。

鬼石地区は芸術家が数週間滞在し、空き店舗で創作活動に励む。その空き店舗を訪れた際、庭に落ちていた実に目を付けた。「私のリアルを追求する」。アレンジせず、対象を見たまま原寸サイズで描く。画材は和歌山の業者から取り寄せた赤、青、黄の3色の墨を使用。すって混ぜて出した黒色がこだわりだ。

都内でイラストレーターをしていた彩英子。ビジネスとして絵画を描くことに違和感を覚えていた時期があった。「自分の気持ちに正直になって作品を作りたい」。その気持ちが鬼石への移住につながった。今は思う存分、制作に打ち込める環境に感謝している。

美術批評を専門とする嘉幸は、「発想の邪魔をしたくない」と彩英子の制作に感想や批評を述べない。彩英子の考えと重なる芸術家の作風や批評家の意見を紹介することにとどめ、自ら答えを出してもらうことを望む。彩英子は「うんうんと聞いてもらうことで自信になる。創作意欲が膨らむ」と話す。

周囲の環境や地域とのつながりを楽しむゆとりも出てきた。時間があれば、2人で散策に出掛け、リフレッシュする。周辺一帯は「八塩あじさいの里」が広がり、7月上旬までアジサイの見頃が続いた。紫や白の花をカメラで撮影し、ブログにアップするのが楽しみの一つとなった。

地元の催しにも積極的に参加してきた。6月中旬、近くの旅館「八塩館」駐車場で開かれたイベントでは自作のクッキーを出品し、親子連れやお年寄りに渡して喜ばれた。今月14、15日には同地区の名物、鬼石夏祭りで出店し、芸術家の仲間たちに協力した。「地域の人に癒やされている」と喜ぶ2人。すっかりまちに溶け込んでいる。

(敬称略)