みなかみ・ 北山さん 懐の深い自然 満喫 田舎暮らし体験を 提供

台湾の高校生を案内する 北山郁人さん(左)

豊かな自然環境や情緒ある温泉に誘われ、みなかみ町には国内外から毎年多くの観光客が訪れる。雪解けとともにスキーシーズンが幕を閉じ、関係者はほっと一息をついたところだが、四季ごとにさまざまな表情を見せる風景を楽しもうと、訪れる人は絶えない。春雨が山林を濡らし、どこか懐かしい香りが立ちこめる中、ぞろぞろとバスから降りる海外からの訪問者を迎え入れる男性がいた。

1泊2日のホームステイに訪れた台湾の高校生30人に、北山郁人(43)=同町藤原=は「短期間ですが楽しんで」と笑顔を送った。これから地元農家8人の家に分かれ、日本の田舎暮らしを味わってもらう。和気あいあいとそれぞれの家庭に向かっていく背中を見送り、北山は引率教員を案内するため、足早に次の場所に移動していった。

みなかみ町で観光の仕事を始めて、もうすぐ10年。首都圏に住む小中学生の林間学校や、自然体験の受け入れを中心に、地元の豊かな自然を発信してきた。「特別なことはなくても、田舎暮らしの体験に意味がある。おっかなびっくりの子たちも、帰るときは『ホテルより良かった』と喜んでくれる」とやりがいを口にする。

移住して最初の仕事は、住民の理解を得ることだった。2009年の移住当時、受け入れ家庭はペンション民宿や日帰り体験を含めて、わずか7軒。「まずは農家の人にも『体験』してもらわないと。半ば強引にお願いしたよ」と冗談交じりに振り返る。地道な努力を重ね、受け入れ家庭は年々増加。16年には180に達し、受け入れ人数は年間1万1千人を超えた。

移住前は東京・奥多摩で、同じように林間学校の受け入れなどをしていた。08年に国が始めたプロジェクトをきっかけに、より多くの子どもを受け入れられる土地を求めて移住を思い立った。妻の路加(46)がスキーをしていたことで豪雪で知られる藤原を選び、古民家を借りた。「雪がすごくいい。北海道にも負けない」と、すぐに気に入ってくれた。さまざまな場所を見て回った経験のある北山にとっても、みなかみは懐の深い、多彩な魅力のある土地に映った。

移住当時3歳と1歳だった長男の佳月(12)と長女の瑠那(10)も、“みなかみ育ち”として地元の生活にすっかりなじんでいる。現在は週末に地域のイベントに参加したり、スイミングやバレエの稽古に出掛ける。家族の今の楽しみは、今月中旬にある瑠那のバレエ発表会。自然に囲まれて育った元気いっぱいの娘に、路加は「お稽古で少しは女の子らしくなったかな」と目を細めた。

(敬称略)