地域と絆 歩み着実 新たな家族、 就農準備…

朝晩の肌寒さが季節の変わり目を実感させる。北毛の山間部から下りてきた紅葉前線は、山肌を鮮やかに染めている。県内に移住した4家族にもさまざまな変化があった。新たな家族が加わることへの喜び。本格的な就農に向けた準備。築いてきた地域や家庭の絆を大切にしながら、日々変わる環境に合わせ、しっかりと歩みを進めている。

館林 常連客の紹介で足利市内の老人ホームの祭りにボランティアで出店した佐藤さん夫妻
高崎 休日、にぎやかにカードゲームを楽しむ(左から)忍さんと遼太郎君、和佳奈ちゃん、功さん

存在の大きさ

横浜市から移り住み、館林市でコーヒー専門店を営む佐藤雄一郎、早苗夫妻。ホットの注文が増えてきた頃、一家にうれしいニュースが入った。3歳の長男、龍が来年、お兄ちゃんになるという。

早苗の体調を気遣い、雄一郎が張り切って店を切り盛りしている。「焙煎(ばいせん)も頑張っているんですよ。お味はいかがですか」。2人分の仕事を1人でこなす日もあり、忙しさを感じることもあるが、妻の存在の大きさをかみしめるいい機会になっている。

何よりお客さんの温かい支えが身に染みる。父として、店主として、元気でいるために、お客さんの勧めもあり最近ヨガを始めた。

キャリア重ねる

10月のある休日。「じゃあ黄色!」。高崎市の阿部家では長男、遼太郎(6)と長女、和佳奈(5)がカードゲームで真剣勝負を繰り広げていた。功(41)と妻の忍(45)が見守る。

看護師の忍は10年前、「在宅でのみとりに携わりたい」と同市内の緩和ケア診療所に転職し、実家のある埼玉県熊谷市から高崎に移り住んだ。功の勤務の関係もあり一時都内で生活したが、功の退職を機に再び高崎へ。昨年度には認定看護師の資格も取得し、着実にキャリアを重ねてきた。やりがいは大きい。

同居する功の両親の協力もあり、家事は「ときどき」。仕事も、家族で過ごす時間も大切だ。

片品 笑顔で食卓を囲む五十嵐さん一家。(左から)のぞみさん、嵩倫ちゃん、寛明さん、睦泰君
下仁田 旺己ちゃん(中央)を見守る香輝さん(右)と優希さん。初めての子育てに奮闘している

やりたいことを

片品村にIターンした五十嵐家の次男、嵩倫(たかみち)は8月で1歳になった。家族で囲む夕食では、のぞみ(34)が自分のことは差し置き、嵩倫の世話をしている。

のぞみは今夏、就農に向けて関連本を読むなど準備を始めた。「だんなに依存すると遠慮してしまう。一人の人間としてやりたいことをやりたい」と話す。本格的に始めるのは4、5年先だが、嵩倫が保育園に入園する来春、以前働いていた野菜農家でパートをしながら、借りて3年目の畑で花豆を育てたいと考えている。

「好きなことをしてもらうのはいいこと」。夫の寛明(41)は今月末で、尾瀬国立公園での今シーズンの歩荷の仕事を終える。

お祝いの輪

下仁田町の沼田香輝(25)、優希(29)夫妻が新たな家族を迎えた。8月24日朝、富岡市の病院で産声を上げた男の子。「旺己(おうき)」と名付けた。2人が驚いたのはお祝いの輪の広がりだ。

地域おこし協力隊員として千葉県から赴任した香輝が働くのは、タンメンやギョーザなどが町民に親しまれている老舗食堂「一番」。味の伝承に汗を流す若者の家に子どもが生まれたと聞き付けた店の常連や、店の近所の商店主らが次々と祝ってくれた。

夜も1、2時間おきに抱っこをするなど、初めての母親業、父親業に奮闘しているが、町民からの「おめでとう」の言葉が2人の背中を押している。

(敬称略)