片品・ 五十嵐さん一家 万一に備え 妻が就農計画 育児と両立 準備進める

嵩倫ちゃんを背負い、畑の草刈りをするのぞみさん

尾瀬の国立公園化10年目のシーズンがもうすぐ終わり、長い冬を迎える。福島県出身で、山小屋に生活物資を運ぶ歩荷(ぼっか)の五十嵐寛明(41)=片品村鎌田=の20年目の仕事もあとわずかとなった。

「気を付けてね」。午前6時すぎ、尾瀬国立公園へ向かう寛明に、妻ののぞみ(34)が玄関先で毎朝欠かさずこの言葉を掛ける。「言うと、本当に気を付けるらしいから」。一緒に歩荷をしていたころから寛明の身体能力の高さ、仕事への真摯(しんし)な姿勢を間近で見てきており心配はしていないが、最愛の夫の無事を祈るのは当然だ。

送り出した後は、長男の睦泰(ともやす)(7)、次男の嵩倫(たかみち)(1)に朝食を食べさせ、掃除、洗濯と家事に追われる日々。その一方で「旦那に何かあった時に家族を支える収入がほしい。自分は自分で自立したい」と就農を計画する。

熊本県の実家はノリ養殖を行い、コメやミカンなどを栽培する農家。子どものころから作業を手伝い、地元農業高校や信州大農学部で学んだ。「農」にずっと関わってきており、農業を選択するのは自然のことだった。

結婚6年目に決意。品目は花豆に決めた。「地域の特産品、この土地でしか作れないものを作りたかった」のが理由だ。片品に来てから存在を知ったが「赤飯に入っているのを初めて見た時は、大きさにだいぶびっくりした」とその衝撃は今も忘れない。

知人に借りた畑で試行錯誤しながら育て方を覚え、2年前に自宅近くの別の畑を借りて始めた。その年は120キロを収穫、近所のパン店に使用してもらったほか、地元農協の甘露煮にもなり、手応えを感じた。

昨年と今年は嵩倫の出産、育児で休んだが、保育園に入園する来春から、野菜農家で働きながら始めるつもりだ。今は関連本を読んだり、時々畑に出掛け、草刈りをして準備をしている。

本格的な就農は嵩倫が5、6歳になったころと考えている。基本は花豆だが、小豆や大白大豆、ニンニク、ジャガイモの栽培も検討している。

そんなのぞみの計画を寛明は「好きなことをやってほしい」と素直に応援する。「畑の場所も知らない」と冗談っぽく笑うが、万が一、自身がけがで働けなくなった際の支えになると感謝する。

のぞみはこの夏から、育児の合間に英語の勉強を始めた。「海外旅行や将来役立つことがしたいと思った。何年先になるか分からないけど、TOEICも受けてみたい」

(敬称略)