片品・ 五十嵐さん一家 尾瀬の季節 心待ちに 冬仕事と 就農準備

自宅前の雪かきをする(右から)睦泰君、寛明さん、嵩倫ちゃん、のぞみさん

家の周りは一面の雪景色となった。福島県出身で、尾瀬国立公園の山小屋に生活物資を運ぶ歩荷(ぼっか)の五十嵐寛明(41)=片品村鎌田=は、村内のスキー場と川場村の酒蔵とを掛け持ちする冬場の仕事を始めている。

この時季、寛明の睡眠時間は少ない。長くても4時間半ほど。こんな生活は3シーズン目となった。

6年続けている土田酒造(川場村)での仕込みの仕事は毎年、歩荷を終えた後の11月中旬からスタートする。午前8時から午後5時までの勤務が基本だが、12月中旬からの2カ月は正午で切り上げ、いったん帰宅。3年目となるかたしな高原スキー場(片品村)に午後5時に出勤し、人工降雪機による作業や除雪などを天候に応じて行う。

翌朝、午前6時半には再び酒蔵に出発。「朝起きたらいないし、よく体力が持つなと思う」と妻ののぞみ(34)は夫を気遣いながら感謝する。

寛明は「歩荷の方が体力的には大変。眠いだけなので、なんとかなる」と淡々と話す。睡眠不足で疲れがたまると、休暇を取ってリセットしている。1年を通して体が資本の仕事に従事しているだけあって、自身の“体の声”には敏感だ。

故郷も雪国であり雪のある暮らしには慣れていたが、二つの仕事をしながら自宅の除雪に追われるのは「気持ち的にきつい」と苦笑する。それでも、職場は楽しく、人に恵まれているといい、この生活に不満はない。一方で、尾瀬への思いも募る。「歩荷は明日から始まってもいい」。シーズンはもう少し先だ。

就農を計画するのぞみは、無化学肥料を使う自然農法を考えている。「化学肥料や農薬を否定するのではなく、自然との共生という自分の思想に近い農法だから」。6月ごろから地元特産の花豆栽培を再開し、本格的に始める数年先を見据えて準備を始める。

1歳5カ月の次男、嵩倫(たかみち)は家中を動き回るようになった。目に入った物は何でも口にして確かめる。昨年11月で8歳になった長男の睦泰(ともやす)と遊ぶことに夢中だ。

睦泰はこの1年で身長が5センチ伸び、顔つきもちょっぴり大人びた。のぞみは「お兄ちゃんとしての自覚が出てきた。思いやれるようになった」と成長に目を細める。

愛犬コータローは雪をものともせず、朝夕2回の散歩を楽しみにしている。

(敬称略)