下仁田・ 沼田さん一家 思い伝わり 距離縮む 仲間との絆で 定住決断

気心の知れた仲間に囲まれ食事を楽しむ沼田さん夫妻(右)。 地域の未来についても熱く語り合う

「食の伝承」を任務とする地域おこし協力隊員として昨春、下仁田町に赴任した神奈川県出身の沼田香輝(25)=同町下仁田。第1子の誕生を心待ちにしながら老舗食堂で修業している。

町中心街の居酒屋「きあい」ののれんをくぐった沼田を「いらっしゃい」と斎藤訓史(37)が笑顔で出迎えた。店に集った佐藤将司(37)は街中の理容店、斎藤明彦(35)は青果店で働く。たわいない話から町の将来まで、囲んだテーブルには話題と笑いが絶えない。沼田にとって4人の絆は、下仁田で暮らしていく決断をする大きな後押しとなった。

地域おこし協力隊員は1年ごとの更新制で、最長3年。「正直、定住できるか迷いはあった」というのが素直な気持ちだった。実際、赴任した自治体を去る隊員もいる。「本当に定住するのだろうか」という周囲の雰囲気を感じ、町民との距離を測りあぐねていた時期もあった。

複雑な思いを抱きながらも、老舗食堂「一番」の味を習得しようと、名物のギョーザやタンメン作りに情熱を傾けた。町民にとっての思い出の味を守ろうと、町外から若者がやってきたことはすぐに伝わった。一番へ食事に行った地元生まれの佐藤は、懸命に下仁田の味と向き合う沼田の姿が印象に残ったという。地元の味を伝えていく思いの強さが、町民との距離を縮めていった。

4人は携帯電話の無料通信アプリ「LINE(ライン)」でグループを作り、情報を共有したり飲み会の約束をしたりしている。フットサル仲間でもある斎藤明彦は「負けたくない気持ちがアグレッシブなプレーに表れている」と、付き合っていくうちに感じた沼田が店では見せない一面も語った。

昨年12月末、妻、優希(29)の妊娠が分かった。伊勢崎出身で、下仁田へ移住して居酒屋を始めた斎藤訓史はとりわけ喜んだ。「自分を重ね合わせた。沼ちゃんの頑張りは本当にうれしいよ。産まれたらバーベキューをしよう」と誕生を心待ちにしている。

町と隊員の更新をした2月、沼田は下仁田への定住の意思を固めた。8月に生まれる新しい命は、この町で育んでいく。優希と話すのは「とにかく元気に大きくなってくれる事が第一」。町のことを一緒に考える大切な仲間がそばにいてくれる。育児もうまくいきそうな気がする。

(敬称略)